リバースエンジニアリングとは
リバースエンジニアリングは、日本語に直訳すると「逆行工学」という意味です。ものづくりの世界でリバースエンジニアリングは、既存の機械や製品を分解して部品を分析したり、図面化したり、複製したりすることを指します。
ソフトウェアの世界でも、既存のプログラムを分析することをリバースエンジニアリングと呼ぶこともありますが、今回はものづくりにおけるリバースエンジニアリングについて紹介します。
一般的な製造過程では、3Dモデルや図面の作成をしてから、加工用のデータを作成し、製品の加工に入ります。しかし、リバースエンジニアリングでは真逆の工程を歩みます。既存品から寸法を取得して3Dモデルを作り、3D上で強度を検証したり、設計変更したりするのがリバースエンジニアリングならではの特徴です。このようなプロセスを経ることで、1から図面を作成するよりも早く、動作レベルが高い製品を作成できるのです。
古くは既存品をノギスやハイトゲージなどのアナログな測定機器を使用して、部品の寸法を計測していました。このような手法もリバースエンジニアリングと言えますが、近年では3Dスキャナなどを用いて計測する手法が一般的となっています。
3Dスキャナなどの近代的な計測機器の発展に伴い、ものづくりに携わる企業ではリバースエンジニアリングを製品開発に活かそうとする動きが高まっています。
ものづくりでのリバースエンジニアリングの活用方法
ものづくりの世界で、リバースエンジニアリングは次のようなものを目的に活用されます。
- 修理・補修部品製作
- スペアパーツ作成
- 老朽化した金型の複製・修繕
- 新製品開発・既製品の研究
- 金型3Dデータ化・補修
- 美術品・文化財の3Dデジタル化
- 展示用レプリカの作成
先程も紹介したように、既存品を分解して3Dデータ化することで製品の分析が可能です。機構を構成する部品をすべてスキャンすれば、どの部品がどのように動くのかを3D上で再現することも可能です。ケースに入っていて外からは見えない機構であっても3D上であれば分析できてしまいます。
また、強度試験などをする際にも、3D上であらかじめ同じような条件で解析することもできます。3D上で強度試験すれば、ある程度数値にあたりをつけられるため、実際の製品を使って強度試験する回数は少なくて済みます。その結果、強度試験に掛かる時間やコストを大幅に削減できるのです。
図面のない金型の複製や修繕などにもリバースエンジニアリングは活躍します。昔から使い続けている金型が故障した際に「探しても図面が見当たらない」というのはよくあるケースです。そんなときにリバースエンジニアリングの技術を用いれば、既存の金型から寸法を計測して、複製したり、修繕部品を作成したりということができます。
リバースエンジニアリングの手順
リバースエンジニアリングの実際の手順について説明します。基本的には次のような工程を経るのが一般的です。
- 形状測定
- データ処理・3Dデータ作成
- 加工データ作成
形状測定
既存品を測定するのがリバースエンジニアリングの一番キモとなる工程です。
部品の測定には接触式の3次元計測器や非接触式の3Dスキャナを用いるのが最近の主流です。
接触式の3Dスキャナは、部品の表面状態にかかわらず測定ができます。接触式のため、非常に高い精度で測定できます。「プローブ」と呼ばれる測定子が物理的に入らない小さな穴などの箇所は計測できません。最近ではこのような弱点を補うためにカメラで計測する機能を備えた機器も増えてきています。
また、計測は手動で行うのが基本のため、計測箇所が多い部品のスキャンには非常に時間がかかります。そのため、曲面の計測にはあまり向きません。接触式の3次元計測器は四角や丸といった幾何学的な形状のスキャンに向いているといえるでしょう。
非接触式の3Dスキャナは、専用の台に部品を置いてカメラで様々な角度からスキャンするタイプと、ハンディタイプのスキャナを用いて手動でスキャナを移動しスキャンするタイプの2つが主流です。接触式に比べると計測の作業が楽なため、作業時間は短くできます。
反面、光を用いて計測するため、表面に光沢があるとスキャンできなかったり、カメラで捉えるのが難しいような小さな穴などはうまく測定できなかったりといった問題点があります。このような特徴から3Dスキャナは大型の部品や自由形状の部品のスキャンに向いています。
寸法精度を求める場合は接触式の3次元計測器が用いられ、簡易的に測定したい場合には3Dスキャナを用いるのが一般的と考えておくといいでしょう。最近では3Dスキャナの精度もどんどん上がってきているので、精度を求める場合であっても3Dスキャナで完結するケースもあります。
データ処理・3Dデータ作成
スキャンしたデータは、そのままでは点の集合データとなっており、3DCAD上では扱えません。そのため、点をつなぎ合わせるような形で面を作り3Dモデルを作っていく必要があります。
また、うまくスキャンできなかった箇所については、手動で修正していく必要があります。測定したデータを元にどの面を基準にするかなどの設定に、データ作成者の技術と経験が問われます。
最終的には作り上げた面のデータから「ソリッド」と呼ばれる3Dモデルを作成します。ソリッドデータを作成しておくと、このあとの図面化や加工データの作成がとても簡単になります。
スキャンした部品をそのまま複製する場合には何もせずに、そのままソリッドを加工データの作成に使用しますが、なんらかの設計変更を行う場合はこの段階で行います。
図面や加工データの作成
作成した3Dモデルを元に図面や加工データを作成します。3Dモデルから寸法を参照できるので測定データに基づいた正確な図面が出来上がります。図面は必ずしも必要なわけではありませんが、検査や設計、打ち合わせなどでは2次元図面があると非常にわかりやすいため、必要な場合は作成します。
リバースエンジニアリングで作成した3Dデータは
マシニングセンタや3Dプリンタなどで加工することが一般的です。ただし、金属の3Dプリンタは製造単価が高価になってしまうため、弊社ではマシニングにより加工製作しています。
加工データを作成するソフトウェアをCAM(Computer-aided manufacturingの略)と呼びますが、CAMにソリッドデータを読み込ませることで、工具の割り付けや動きを自動で動作プログラムに変換し3Dデータと同じものを作成することが可能です。加工データを作成したら、あとは機械を使って加工していきます。
リバースエンジニアリングと知的財産権の問題
便利なリバースエンジニアリングですが、既製品をそのままコピーすることもできてしまうため、著作権や特許などの知的財産権に関わってくる場合もあります。
「既存品をコピーするのは違法なのでは?」と不安になる方もいるでしょう。リバースエンジニアリングで複製したものを製品としてリリースし販売する場合は、著作権や特許の侵害に当たります。しかし、研究や開発として行う場合は、著作権や特許では問題となりません。既存品を研究して新製品の開発に活かすのであれば、問題ありませんのでぜひ活用してみてください。
多種多様な用途で活用できるリバースエンジニアリング
修理・補修部品製作 | スペアパーツ作成 | 新製品開発・既製品の研究 |
金型3Dデータ化・補修 | 展示用レプリカの作成 |